「孫とはさみは使いよう」
2003年8月 小林喜三郎さんからのお手紙を紹介いたします。
お盆のお墓掃除が気になっていましたので、12日の早朝、
ご飯も食べずにお寺へ向かいました。
すでに墓地の一角には人影があり、ご婦人と小学校5,6年生くらいの男の子が
墓掃除をしていました。
私は、「おはよう!」と声をかけ、その男の子に「おぉ、お手伝いかい。感心だねぇ。
あんたは偉い!」と言いますと、男の子は照れくさそうにしています。
それで、私は言葉を続けて、「夏休みの宿題も多いかもわからんが、家のお手伝いをすると良い思い出になりますよ。これからも続けてね」と言い、ご婦人の方に笑いかけながら、「お父さんやお母さんの言うことをよく聞いてね」と言いました。
すると、ご婦人は、嬉しそうな顔になり、「いやいや、この子は私の孫ですよ。私は母親でなく、おばあちゃんです」と言います。
(陰の声。
いやぁ、ご婦人が男の子の母親でなく、おばあちゃんだろうとは分かったのですが、
ちょいとヨイショしたんです。ヨイショがすぎましたかねぇ。あははっ。)
ご婦人は、「この子の兄弟は3人いるのですが、この子だけが私の言うことを聞いてくれるんですよ」などと話します。
そうですかと相づちを打ちつつ、私もそんなに油ばかり売っていられないので、
自分の家の墓の掃除を始めました。
しばらく汗を流しながら掃除をしておりますと、男の子が、私の掃除の様子を
じっと見ていることに気づきました。
あんまりじっと見ているので、「どうしたの?」と尋ねましたら、男の子は、「ロウソクが溶けて流れたものが墓にくっついて取れないんです。
それに、線香のすすも取れません。どうして取るのかなあと、おじさんの掃除のやり方を見ていました」と言います。
「それはね、水洗いだけでは取れないんだよ。ちょっと待っててね」と私は、
停めて置いた車に戻り、道具をとってきました。
持ってきた道具は、くっついたロウソクを削り取るための、ドライバーとナイフです。
ナイフで、ロウの取り方を説明しようとすると、男の子のおばあさんが、
「うちの孫は、ナイフなど使ったことがないんですよ」と心配そうに言います。
「そうそう、ナイフは危ないから、気をつけて使うんだよ」と、
私は、ナイフでロウを削って見せました。
ナイフの刃を、流れて固まったロウソクにあて、
ナイフの柄を持つのでなく、背の方に手を添えて削りますと、
力が平均に掛かってやり安いんですよ。
水洗いでは落ちない汚れも、家庭用の洗剤、たとえばクレンザーなどを使えば、
割と簡単に取れるんです。
墓磨きの職人さんに言わせると、専用のクリーナーもあるとのことですが、
家庭にあるもので間に合えば、それでいいですからね。
こんなことを、おばあさんと会話しながら、私は手を出さずに、男の子に勝手に
作業をやらせておきました。
要領を憶えた男の子は、次はドライバーの先でロウの固まりをポコッと取り除くことにも成功し、なかなかハツメなところを発揮していました。
その後は、ホイル磨きの洗剤をタオルに付けて擦ると、お墓は見違えるように
キレイになりました。
キレイになったお墓の前で、満足げな男の子を見たおばあさんは言いました。
「まあまあ、孫とはさみ(ナイフ)は使いようで切れますねぇ!」
ロウは水をはじくし、ぶ厚く接着してるから、
いくら一生懸命タオルで水拭きしても、だめなんですよねぇ。
頑張って掃除をしても、要領が分からなければキレイにならず、
せっかく手伝おうとした気持も萎えてしまいます。
そんなとき、ちょっとしたコツを教えることで、楽しく作業が出来れば、
またお手伝いしようと言う気にもなると言うものです。
もたもたと子供に教えているより、その間に自分がやった方がよほど早いんですが、
それをじっと我慢して、子供がやるのを見守ってやりましょう。
はい、「孫とはさみは使いよう」のお話でした。
これで、小林さんのお便りは終わりです。
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